RODE Wireless PROはタイムコード界の「価格革命」か?2023年はユーチューバーも絵音をすぐに同期“サクサク編集”できる元年になりそう

ポイント
  • マイクというよりもタイムコード関連製品として考えると“めちゃくちゃ”安い→価格革命
  • 抜群の知名度がある人気製品にタイムコード機能が搭載され、タイムコード使用者の裾野が広がりそう

民生用ワイヤレスマイクの先駆けRode Wireless Goシリーズの最新作「Pro」が2023年8月に発表された。2台の送信機と1台の受信機を同梱し、送信機側はワイヤレスマイクとしてだけでなく、それ単体でも内蔵メモリーに32ビットフローの“音割れしない録音”ができるフィールドレコーダーとしても使えるのが特徴。

注目すべきは399ドルと比較的リーズナブルな価格帯でありながらタイムコード機能を新たに備えたことだ。タイムコードは、何台ものカメラやマイクを駆使する映画やテレビなどの「産業」では、映像と音声を同期するために当たり前のように使われている。ただ、専用機器の価格がネックとなり、個人Youtuberなどのアマチュアの間では一般的ではない。音を別撮りしたり2台以上のカメラで撮影したりする際は手をパチっと叩く様子を撮影し、それを目印に編集する古典的な手法をとっている人も少なくないはずだ。

ほとんどの編集ソフトにも一応、音声波形をみて同期する機能が備わっているものの、現実的にはフレーム単位では合わないのが現実。そもそも1台がスタジオ、もう1台がロケ先などのカメラが別々の場所にある場合は、“共通の音”がないため音声波形を合わせようがない。結局、手作業で同期せざるを得なかった。このようにマルチカムや音声別撮りをすると何かと骨が折れるのが音と映像の“同期”だったのだ。それが400ドル台の製品にタイムコード機能が搭載されるとなると、タイムコード編集が一気に普及する可能性がある。2023年は退屈で苦痛だった作業から開放されタイムラインを素早く構築できる「タイムコード元年」になるかもしれない。

これまでにどんな製品があった?

アマチュアにも手が届くタイムコード関連機器としては、これまで英Timecode Systems社のUltraSyncシリーズや、独Tentacle Sync社のTentacleシリーズが主な選択肢だった。いずれもタイムコードの専業メーカーで、日本でも技適などの条件クリアした状態で販売されている。とりわけTENTACLE TRACK Eは単体で32ビットフローティング録音ができる点でWireless Proとやや近い製品だった。

問題は1台で319ユーロする価格だ。Wireless Proと同じようなことをしようとすれば、TRACK E2台と親機のSYNC Eを1台揃えなければならないので837ユーロ(約13万円)かかる。それがWireless Proだと399ドル(約5.8万円)ですむので半額以下だ。まさにタイムコード界における価格革命と言えよう。

専業メーカーとの比較

実際にシステムを組んだ時のコストを考える

ここでは、喋り手が2人いて、それを一眼レフ+iPhoneの2カメで撮影。TCを利用してマルチカム編集するケースを考える。そもそも、Wireless Proを(これまでのWireless Goシリーズのように)2台のワイヤレスマイクから送信された音声を1台のカメラで収録して使う限りは、タイムコードの幕はない。映像と音はすでに一致しているからだ。タイムコード機能が活きてくるのはワイヤレスマイクとして使わず、32ビットフローティングのフィールドレコーダーとして使うユースケースだ。2カメ、2音声の構成で従来のTC専用機器を使う場合とWireless Proを使った時のコストを比較する。

Ultraシリーズを使う場合、録音機能がないため別途フィールドレコーダーが必要になる。ZOOM F2-BTは標準でBLUEに対応しTCを受け取ることができるので手っ取り早い。基本的にONEをマスターとして、BLUEと同期。BLUEからBluetoothを使ってF2やiPhoneにTCを渡すことになるだろう。BLUEは6台までTCを無線配信できるので、拡張は容易だ。一方、初期投資はそれなりにかかってくる。2カメ2音声程度であれば価格の高さがネックになる。

  • ZOOM F2-BT(USD228)x2
  • ULTRASYNC-ONE (EUR240)
  • ULTRASYNC-BLUE(EUR149)
  • システム価格 約13万円(送料や消費税を含まず)

TENTACLEはTRACK-Eが32ビットフローティングの録音機能を備えている。SYNC-EをマスターにしてTRACK-Eに配信。一眼レフ側がジャムシンクできる機種であれば、まずSYNC-Eを一眼レフにフィードさせ、次にそのSYNC-EをiPhoneとつないだ状態で収録すればTRACK-Eが2台、SYNC-Eが1台でシステムが組める。

  • TRACK-E(319EUR)x2
  • SYNC-E(199EUR)
  • システム価格 約13万2000円(送料や消費税を含まず)

一眼レフがジャムシンクを受け付ける機種の場合は、先にTCを渡す。その上でレシーバーはiPhoneとつなぐことになるだろう。この構成はWireless Proのパッケージだけで実現できるのでシステム価格は399ドル(約5万8000円)と最も安価になる。(送料や消費税を含まず)

2カメ2音声でTC同期させる上記のシステム構成案を踏まえて表にすると次のようになる。

ULTRA SYNC BLUE/ONETENTACLE 
TRACK-E/SYNC-E
RODE Wireless PRO


TC配信/受信マスター/外部ソースとジャムシンク可マスター/外部ソースとジャムシンク可マスターのみ
ワークフローの洗練度特になしタイムライン合わせの専用ソフトが付属
FCPやPremiereにすぐに書き出せる
特になし
DavinchResolveでTCを読み取り、FCPやPremiere向けのタイムラインを書き出す手順が案内されている
特徴録音機能はないため別に対応機器を揃える必要があるTRACK-Eに録音機能がある送信機に録音機能がある
iPhoneMAVISアプリでTC受信し動画に埋め込めるSYNC-Eを有線接続して音声チャンネルにTCを収録する受信機側を有線接続して音声チャンネルにTCを収録する
精度「正確」とされるが精度に関する具体的な記載はHPに見当たらないずれは24時間で1フレーム未満だと公称他社と遜色ないと謳うものの4時間ごとの同期を推奨している
システム価格約13万円約13万2000円約5万8000円
2カメ2音声などの
小規模マルチ収録に限ると…
テーマ比較表

TC専用機器は拡張性に富むため、3カメ4カメ…とカメラを増やしたり収録音声を増やしたりする場合でも機器を買い増しすれば対応していける。一方で2カメ2音声のような最小限のマルチ収録であってもそれなりの初期投資が必要だ。Wireless PROはここに風穴を開けそうだ。ジャムシンクに対応しているので、TCを受け入れる機器を増やす分には一応の拡張性もあるものの、手動でフィードを渡して回るのは台数が増えればあまり現実的ではない。あくまでも2カメ2音声程度に限った小規模運用に限られるだろう。とはいえ、標準パッケージだけで最初のTC環境が整うためアマチュアでも導入する敷居が低いのが嬉しい。

Wireless PROのタイムコードは“本物”?

RODE社のYouTubeチャンネルには、Wireless PROの発表後ほどなくしてQ&Aの動画が追加アップロードされた。製品紹介の動画には、タイムコードに関する質問がコメントで多く寄せられており、“中の人”もタイムコードについて特に時間を割いて回答しているのが印象的だ。

WirelessPROのタイムコードとは
WirelessPRO 質問と答え
タイムコードとは何?連携方法は?

公式に矢継ぎ早にアップロードされた3本の動画からタイムコードに関するトピックスを抜き出した。

コメントに対するRODE社“中の人”の答え(動画より引用)

2台以上のカメラを使って同期できる?

Wireless PROはタイムコードを生み出すジェネレーター(マスターソース)として機能。カメラ側やオーディオ機器、あるいは専用機器をスレーブ側に入力させれば(ジャムシンク)、複数台のカメラやオーディオ機器と同期できる。

送信機が圏外になった時はタイムコード機能は停止する?

停止しない。送信機単体でもTCを記録し続ける。受信機の電波圏内に復帰した際に自動的にTCのずれを検出し、必要であれば再同期する。

タイムコードは”本物”?

そう100%本物。SMPTEに準拠したTCを生成する。つまり、標準規格に対応した他社機器やソフトとも協調できる。長年に渡って業界が培ってきた様々なワークフローと円滑に連携できる。

Wireless PROレシーバーに外部の専用機器からジャムシンク(入力)できる?

できない。別のデバイスからのTCを入力することはできない、いまのところ(yet)!
動画内では含みを持たせた口調のため、将来的に対応するか検討している可能性がある

Wireless PROのTCは正確?

正確。ほかの専門機器と同じように気温補正付きの発振器を用い、-40度から85度の間で正確に時を刻む。32Mhz,0.5PPMの分解能。

TENTACLEが24時間のドリフト(ずれ)が1フレーム未満と強調しているのに対し、4時間毎の再同期を推奨しているのが気になる

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